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吉井和哉のライヴが変わった、ということはこの日12/27(水)の武道館公演の前から処々で語られてきたことだ。その発端は'06年夏に数多く出演したフェスティバルでのTHE
YELLOW MONKEYの楽曲も演奏し始めた、吹っ切れたパフォーマンスであり、さらにその後の数々のインタビューが拍車をかけ、そして11/8から始まった「TOUR
2006 THANK YOU YOSHII KAZUYA」でそれはファンの前に披露されてきた。そして12/27の武道館公演初日はその風評は現実のものであり、実はそんな風評を軽く飛び越したところにすでに吉井和哉は存在しているのだということを雄弁に物語っていた。
開演前の会場を見渡すとすぐにその“異様”さが目に付いた。やたらとスクリーンがあるし(計4つも!)、ステージの上は数多く置かれている楽器の隙間を埋めるようにセットが設置されている。もちろんソロ・ミュージシャンになってからのライヴではお目にかかったことはなかったし、THE
YELLOW MONKEY時代の煌びやかなステージともまた違うド派手なものという印象を受けた。それは開演直後に早速ド派手に威力を発揮した。客電が落ち流れてきたのは吉井和哉のライヴでは聴き慣れないラップ、そしてステージの左右、上、後ろに設置されたスクリーンに映し出されたのはなんとKREVA。雑誌で対談をするなど親交のあるKREVAによる「Let's
Go! Let's Go!」の軽快なラップが会場の空気を一新させ、「THANK YOU YOSHII KAZUYA」のキメラップとともにサッとステージ中央のお立ち台にスポットライトが当たる。そこに現れたのはサタデーナイト・フィーバーのあのポーズをキメた紛れもない金髪の吉井和哉。そこから一気に1曲目「I
WANT YOU I NEED YOU」に流れ込んだ。観客に一連の現象を考える隙すら与えない早業で会場全体の意識をステージに集中させ、瞬時に自分のものにしてしまった。
ライヴの最大の楽しみの一つは、間違いなくオープニングにある。どんな衣装でどんな登場の仕方をするのか、どの曲から始まるのか。それらを考えただけでも楽しいが、実際のライヴが想像通りに始まった時、想像とは全く違うもので始まった時、はたまた想像を絶してしまった時、それぞれに引き起こされる楽しみが全身を駆け巡る。その楽しみは心臓がバクバクする興奮かもしれないし、自分の読みに酔いしれる陶酔感かもしれないし、未知なるものへ期待で高ぶる高揚感かもしれない。逆にどんな種類であれ観客に楽しみを与えられないオープニングはその意味を果たしていないと言える。そのことを踏まえて言えば、この日のオープニングはまさに完璧なものだった。筆者の全身を駆け巡った楽しみを記せば、それは何層にも押し寄せるカッコイイものに対する畏怖だったと思う。しかし、この日のオープニングが果たした役割はそれだけに留まらないより深遠な意味をも持ち合わせていたと思う。その意味とは、観客の「自分の範疇でものを考える空間=日常」を瞬時のうちに打ち砕き、このライヴが完全なる「ショー=非日常」であることを宣言していたということだったのではないだろうか。
その「ショー=非日常」は随所に表れていた。例えば照明。これでもか、と言わんばかりにステージに彩りを与え続けていた。例えば映像。4つのスクリーンが迫力を生み、ほとんどの曲に曲専用の映像が映し出されていた。プロモーション・ビデオなどではなく、ライヴのために制作されたであろうオリジナル映像だ。そして例えば金髪でテカテカの青い革パン姿の吉井和哉本人。「40歳がこの格好をしているのを見て、やり過ぎって思うかもしれないけど」という旨の発言を本人がしていたけど、確かにその辺をそんな格好をした40歳が歩いていたらビックリするだろう。ただそこは“過剰”な照明で煌々と照らされた、“過剰”な映像で新たな感覚を生み出すステージなのだ。そこに“過剰”な吉井和哉がいなければ成り立つはずもない。思えば吉井和哉は「きつかったら 脱ぎゃいいじゃん 今度は何を着てみよか」と様々なその時々の似合う服を着てきた。時に坊主頭に赤い軍服で、時にジム・モリソンばりのパーマにロング・コートで、時にアディダスの青いジャージだったり。その時々の似合う服を着てきた吉井和哉が、40歳にして再び金髪になり往年のロック・スターかと見紛うテカテカの革パンでステージに立った。つまり、今の吉井和哉が思う似合う服装がそれなのだ。そんな種々の“過剰”をキーワードにステージ全体が繋がっており、それらがどうしても必要だったのだろう。“過剰”こそが「ショー=非日常」を創り出す最重要要素の一つなのだから。
その徹底したこだわりは曲と曲の間にも表れていた。曲が終わったらすぐにステージを暗くしてそこで何が行われているかを一切見せなかったことだ。飲み物を飲んだり、楽器を取り替えたり、チューニングしたりする「日常」を排除し、常に「ショー=非日常」だけを提供するという精神の表れだったと思う。昨今のライヴでよく目にする、ギターのチューニングをしながら観客に話しかけたりするなどのいわゆる“自然体”などとは対極にある「ショー=非日常」を徹底的に追及した結果なのだろう。そしてその精神は楽曲にも表れていた。「HOLD
ME TIGHT」はさらなるテンポ・アップで爽快感さえ漂わせる切れ味を発揮していたし、ザ・ローリング・ストーンズの「Paint It Black」のカヴァーは吉井和哉にしか書けないような訳詞で完全に吉井和哉のものになっていた。「BLACK
COCK'S HORSE」は原曲とはまったく違う別曲と言ってもいい程にアレンジされ、「TALI」は曲の雰囲気に見事にはまったアコースティックで会場を温かく包み込んでいた。そして、キラキラの星空を武道館の天井に演出する中「パール」は名バラードとして生まれ変わっていた。「好きな曲を好きなようにやっていきます」という吉井和哉の言葉どおりに大胆なアレンジをほどこされた楽曲は「日常」ではないものの象徴だったのだと思う。
筆者はこれほどまでに「ショー=非日常」を表現したライヴをこれまで観たことがなかった。それがこんなにも美しいものだということもこの日のライヴで初めて知った。そしてそれが似合う服を自信もって着ている吉井和哉から生まれていたという事実。その事実はこれからの吉井和哉をますます輝かせる大きな核となるだろう。

12月28日、日本武道館――それは吉井和哉にとって、そして、彼のファンであり続けるオーディエンスにとって、非常に感慨深い日であり、場所である。この日はTHE
YELLOW MONKEYが生まれた日で、以来、バンドは誕生記念ライヴとして、この日に日本武道館のステージに立っていたからだ。そんな思い入れもある'06年12月28日、一人のアーティストとして吉井和哉は日本武道館のステージに立った。
ステージ中央に設置されたLEDのスクリーンに、KREVAによるオープニング・ラップが流れると、満員の会場から拍手が沸き起こる。そして、1万5千人の期待と興奮が渦巻く中、金ピカに飾られた階段のてっぺんにミリタリー風の赤いジャケットと白いフリルシャツ、革パン姿の吉井が姿を現した!
「今日はお前たちの穴っちゅう穴を広げに来たぜー!」というなんとも吉井らしい挨拶で幕が開けると、「I WANT YOU I NEED YOU」「LIVING
TIME」「HOLD ME TIGHT」と最新アルバム『39108』から最強のロック・チューンが惜しみなく立て続けに演奏された。とにかくこの日は、スタートから並々ならぬ気迫が吉井からはもちろん、会場からも溢れていたのだ。それは、吉井も確実に感じていたのだろう。会場に向けて、「なんか、すごいじゃん。ヤバイ、気合い入った!
やっちゃうよ。オレ、やっちゃうよ。」と興奮状態の頭の中から心の声をそのまま発したかのように、今が絶好調であること、そして、自信に満ち溢れていることを伝えてくれたのだ。
ちょうど10年前の'96年12月28日にも彼は同じ武道館のステージに立っている。30代の始まりから終わりというこの10年間は彼にとって激動の日々であり、様々な紆余曲折の中で経験した出逢いと別れがあったからこそ今の姿があるということを、吉井自身が噛みしめるようにこの場所で歌っているような気がした。「いろんな時代があって今はキンキラキンですが、色々と悩んだり考えたりしていた時の歌を聴いてください」とYOSHII
LOVINSON時代の楽曲「CALL ME」を歌い上げると、グッとこみ上げてくる熱い想いが溢れ出てくるようだった。悩み、苦しんでいた時代にさえも“THANK
YOU”と言えるだけの強さを身につけた吉井は無敵だと思った。その後、カヴァー・タイムでは吉井流の訳詞が乗せられたザ・ローリング・ストーンズの「PAINT IT,
BLACK」と、彼に絶大な影響を与えたといっても過言ではないデヴィッド・ボウイの「ZIGGY STARDUST」を演奏。“ジギーはオレを救った!”と高らかに歌い上げ、彼を構成してきた恩人たちへの感謝も捧げた。
そして、ついにTHE
YELLOW MONKEY時代の楽曲「SPARK」のイントロが流れると歓喜の叫びが会場中をこだました。オーディエンスが掲げた手はアリーナ席、1階席、2階席すべてが一体と化してステージに向かって波打つかのよう。それは、「今日は絶対伝説のライヴになる」と吉井に言わしめるほどの素晴らしい光景だった。そのままの勢いで「ALL
BY LOVE」「WEEKENDER」「楽園」を意気揚々と歌い切ったのだが、その姿になぜかほっとするような安堵感を覚えた。それは、バンド時代の曲と今の曲を、10年という年月のギャップを感じさせないくらい同じテンションで歌いこなし、本当に晴々とした表情を浮かべていたからだ。直面した困難を“笑い飛ばせ
愛を込めて 乗り越えて行け(「ALL BY LOVE」)”と歌い、何度でも生まれ変わって“好きな歌 口ずさむ(「WEEKENDER」)”と宣言し、そして、人生悔いのないように“MAKE
YOU FREE 永久に碧く(「楽園」)”生きていこうと、まるで連なる一曲のように歌い上げたのだ。10年経っても、そして、この先何十年経とうと、彼の音楽人生の中で、自由奔放にやりたいことをやって行くというスタンスはきっと変わらないことを確信し、嬉しく思った。
そして、昨年の40歳の誕生日に初めてやったというアコースティック・ライヴをこのツアーでも取り入れ、「TALI」をアコースティック・ヴァージョンで披露。スクリーンにはPVでもお馴染みのアニメーションが“THANK
YOU YOSHII KAZUYA”ヴァージョンになって流れ、オーディエンスは歌詞とともにその映像を追うようにして、静かに聴き惚れていた。続けて、穏やかな愛の歌「BEAUTIFUL」でこの上なく美しいシンフォニーを奏でると、いよいよライヴは終盤へと向かう。「12月28日は毎年、俺がここでやる!
吉井武道館にしてやる!」と高らかに宣言し、「バラ色の日々」「LOVE LOVE SHOW」とラスト・スパートをかけると、場内からは大合唱の嵐だ。「俺はロック界のディープインパクトだ!」と馬になって尻を叩くわ、階段を駆け上っては「ブラはずしましょ〜!」と歌い叫ぶわ、とにかくやりたい放題の吉井。キラキラのロックスターを気取っているにもかかわらず、下世話でエロい。なのに、とてつもなく恰好いい。そんな40歳、日本のどこを探しても吉井和哉しか見当たらないだろう。
アンコールで吉井は「色んな人と出逢って、色んな別れがあって、そのたびに色んな感情になったんだけど、生きていくのに必要な感情で、この感情があるから理論とか才能が全然無い俺が曲を作れるのかなと思います。これからもこの想いを大事に歌っていきたいと思います」と語った。この日、吉井は自らが駆け抜けてきた色んな時代の一曲一曲を、作った時の感情と真っ向勝負で向き合いながら歌っていたように思う。その結果、辿り着いた答えは「BELIEVE」の中でも決意表明のように歌われている“I
Believe In Me”という言葉。彼にとって30代を締めくくる曲でもあり、輝かしい40代に突入するための足がかりとなった始まりとも言えるこの曲を心から感謝するように歌い、ステージを後にした。
スクリーンには「THANK YOU EVERYBODY」と映し出され、ここでライヴは終了したかのように見えた。しかし、鳴り止まないアンコールの中、アコースティック・ギターを抱えた吉井和哉がたった一人でステージに戻ってきた。そして、「今日は一人、好きな場所で好きな歌を歌う」と言い放ち、「JAM」を歌い出したのだ。その瞬間、泣き出す人もいれば、じっとステージを見つめ聴き入る人もいれば、合唱する人もいた。今から2年前、THE
YELLOW MONKEYのお葬式とも言われた東京ドームでのイベントで演奏されたのを最後に封印されていたこの曲が、吉井和哉という一人のアーティストの元に生まれ変わって新しい命として芽生えたかのようだった。そういえば、さっき吉井は言っていた。「何回でも人間は生まれ変わるって言うけど、今世で俺は吉井和哉ってスーツを着ていて、とても気に入ってます」と。人間が生まれ変わるのならば、その人間が作った曲だって何回も生まれ変われるはずだ。初めてギターを握った少年のように、危なげな部分を残しながらも一生懸命に歌う吉井の姿は、一人で歩いていくことを心に強く決めた自らに挑戦しているかのように見えた。吉井がこれからも好きな場所で好きな歌を歌ってくれるのならば、この先、彼がどこで何を歌おうとも、不安なんて感じる必要はないだろう。今までの自分に感謝を捧げるように「THANK
YOU YOSHIIKAZUYA!」と叫ぶと、迷いのない非常に清々しい表情でステージを後にした。
Photo by MITCH IKEDA
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